ココロノコリ
細くて小さなひとだった
真面目なひとだった
几帳面なひとだった
手先が器用だった
ちょっとした紙工作が好きだった
寿司が好きだった
家族みんなで行くのが好きだった
料理は上手かった
うん、美味かった
おせち料理が特に
この歳になって思う
出不精なひとだった
ずっと専業主婦だった
姑を尊敬していた
夜型で、若い頃はよく遅くまで起きて家事をしていた
細かな事にいろいろこだわりの強いひとだった
思い込みも強かった
絶対に謝らないひとだった
ケンカして言い合いになって、自分が非を認めざるを得なくなった時でも
そこがまた、腹が立った
何度も、夜中に大声で怒鳴ってしまった
子供を上手く育てたという自負のあるひとだった
ヒトからそれを褒められた時にはいつも鼻高々だった
なのに.....
クラシック音楽が好きだった
昔はスポーツのテレビ観戦も好きだった
野球は巨人ファン？だった
自分の子供や孫にベタベタするひとではなかった
でも、孫のために貯金したりしてくれていた
我の強いひとだった
マイペースなひとでもあった
と聞く
その頃の特に仲の良かった親友と晩年偶然連絡が取れた
今は関東に住むその人が、たまに関西に来て会えるときには、
とてもうれしそうで、楽しそうで
でも、自分からはあまり積極的に誘おうとはしなかった
よく長電話はしていたけど
保守的なひとだった
なんで？もっと楽しんだらええやん
東京とか尾道とか遊びに行くんやったら段取りするで、
前もって言うてくれたら新大阪までクルマで送り迎えくらいはするで、
もう充分、家の事してきたし、多少自由になるお金もあるやろし、
もっと、外、出て、
無理したらアカンけど、
ちょっとは身体動かして、
その病気、身体動かした方がええんやで
いろいろ億劫やったら、せめて近所を散歩するとか、
軽いもんやったら歩いて買い物行くとか、
この家は駅近やし、実家の時みたいに坂はないし、スーパーでもホームセンターでも歩いて行けるし
ひとの言う事を聞かないひとだった
何を言っても、
「せやけどな〜」が、口癖だった
施設に入らなければならない事を告げた日、夜中にとても深いため息を何度か聞いた
それから、
僅か、
３ヶ月で.......
早朝、電話口の救急隊員の「どうしますか？」の問いに
「...もう.....いいです..」と...
そう答えるしかなかった
たまらなかった
今日でちょうど１年
未だにこんな事しか書けない親不孝なひとり息子を持ったひとだった
